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「すごく大事な事なんだ」
そう僕は始める。愛していること。可能ならばこれから先も愛したいこと。君と付き合ってきた6年間、一度も離れたいと思ったことはないこと。それでもなお、離れる必要があること。
漏れ出る嗚咽、涙、鼻水、心のかけら。よみがえる二人の思い出。震える彼女の体。
つい、抱きしめたいと思ってしまう。今すぐすべてをあきらめて、彼女を連れて帰ろう。「嘘だ、ドッキリさ」万事解決。ハッピーエンド。
そうはいかない。僕は彼女を愛するのと同じくらい、人間としての強度を求めている。それには、孤独が必要不可欠なのだ。
もちろん僕の論理は伝わらない。それはそうだろう。僕自身としても本当に信じていい論理なのかわからない。
それでも、一番大切な存在だからこそ、僕は強くなるために彼女を捨てるのだ。
「私より本当に大切なことなの?」
彼女が問う。僕は、答えることが出来ない。ただ、彼女を見るふりをして目の前の空間に焦点を合わせるだけだ。
どう帰ったかは、覚えていない。
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