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「連、入るよー」
「あ、あぁ……、いいぞ」
隣の客間で着替えを終え、連のいる部屋へと戻ると、連が困ったような顔をしていた。
「……どうしたの?」
「あー、いや……。なぁ、これでいいのか?」
「そうだね、少し歪んでるかな。一度解くよ」
「お、おう……」
慣れていないからか、固結びになっていた帯を解く。普段から着物を身につける私と違い、連には少し難しかったようだ。手早く襟や裾を整えると、苦しくない程度に結び直す。
こちらにお召しかえを、と女性に手渡されたのは二式の行衣(ぎょうい)であった。修行者が身につける着物であるこの白衣を渡された時には何事かと思ったが、どうやらこれも佳苗の指示らしい。垣石家での家業の様子を見学するのに不可欠なようだが、ここまで徹底する必要があるのだろうか。
「失礼します」
そんな疑問を浮かべていると、部屋の外から声がかかる。使用人の方が様子を見に来たのだろうか。どうぞ、と声をかけると静かに襖が開かれた。
「お迎えにあがりました」
現れたのは先程とは違う女性だった。上品な菫(すみれ)色の着物に、きっちりと結い上げられた髪。凛とした声や余裕のある佇まい。
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