59人が本棚に入れています
本棚に追加
「この度はお見苦しいところをお見せして、申し訳ございませんでした」
「申し訳ございませんでした」
佳苗のお母様に続いて、佳苗が連と私に深々と頭を下げた。
――あれから。佳苗と和斗さんは無事目を覚まし、命に別状がないことを確認すると、佳苗のお母様から状況の説明がなされた。問題が発生した原因は和斗さんが霊媒中の佳苗の体に触れてしまったことによるものだが、その場を取り仕切っていた垣石家側がそれを未然に防ぐことが出来なかったことも一端を担っている。互いに謝罪しあった後、中途半端になってしまった別れの挨拶のために改めて霊媒の儀式が仕切り直された。
今はその儀式のやり直しも終わり、客間へ戻ってきたところである。
「いえいえ、そんな! 顔を上げてください。こちらこそ貴重なお時間を頂いてありがとうございます。大変勉強になりました」
「そう言っていただけると、私たちも救われます。こちらこそ、お越しいただいてありがとうございます。本日のことは十分に反省し、今後に生かして参ります」
「本当、迷惑かけてごめんね。うーん、やっぱり御簾みす越しの方がいいのかな。でもそうなると距離が出来ちゃうし……」
「また検討するしかないわね。……っと、失礼致しました」
「いえ! 勉強させていただきます」
客人の前で親子の会話を始めてしまったことに、二人は再度頭を下げた。邪魔をしているのはこちらであり、その会話だけでも勉強になるので全く構わないのだが、流石に口調まで崩してしまったことについては気にするらしい。お母様はこれ以上の失言を控えるように口元を手で覆った。
起きてしまった問題に対して、すぐに対策に講じる――この姿勢もきっと見習わなければならない。こうして瞬時に対応に動き出すからこそ、垣石家は大きくかつ長く家業を続けていられるのだろう。家業の再興に尽力する身としては、垣石家の考えは参考にできる点が多く、こうして教えを乞えるのは非常にありがたい。きっと今後とも佳苗並びに垣石家の方々にはお世話になることだろう。
「にしてもどうして黙ってたの? 二ツ羽くんが佳苗のお家のお手伝いをしてたなんて」
そろそろおいとましよう、と四人で玄関口まで向かう際、私は連に聞こえないようにこっそりと佳苗に耳打ちした。
疑問だったのだ。佳苗は私の相談を聞いた上で家に招いてくれた。相談の場には連もいたため当たり障りのない程度ではあるが、二ツ羽くんと話がしたいことも伝えてある。それなのに家に二ツ羽くんが来ていることを事前に言ってくれなかったのは、一体どうしてなのか。
その理由を尋ねると、佳苗はあー、それね、と何故かさも楽しそうにニヤリと笑った。
「いやー、植坂が〝俺が力になってやる!〟って感じで意気込んでたからさ。私が邪魔しちゃ悪いかなーって」
「邪魔……ってなんで? 佳苗が力になってくれることで連の邪魔になるようなことがあるの?」
佳苗はそう説明してくれるが、イマイチ要領が掴めない。なにより、その笑みの理由がわからない。改めて質問し返すと、佳苗はより一層笑みを深めた。
「やだなぁもう、相変わらず鈍いんだから。男が惚れた女の子のために一肌脱ごうっていうのに、その役目を私が奪うなんて野暮ってもんでしょう?」
「いや、惚れた女の子って私たちそういう関係じゃないからね!?」
すっかり忘れていたが、佳苗はなぜか私たちを色恋の関係があると思っているのだった。それを前提に話を進めてくるから困ったものだ。
「おっとこれは失言だった。忘れて忘れて」
「忘れるのは佳苗の方! というかそれ本当に勘違いだから。連には他に好きな人がいるし」
(まぁ……相手は男なんだけど)
脳裏に不敵な笑みを浮かべる遥の姿が浮かぶ。見目が整っているだけに勘違いしそうになるが、遥は列記とした男性だ。そんな彼に叶わぬ恋慕を寄せていることを連はまだ知らないが、真実を知るまでの間は夢は見させてあげたい。
「え、そうなの? 相手は誰? どんな人?」
いつまでも勘違いさせたままでいるのは連に対して申し訳ない。はっきり伝えておく方がいいだろう、と説明したつもりだったが、撒いた餌が悪かったのか、佳苗はさらに食いついてくる。
「へ!? あー、えっと。私の教育係で、モデルをしてる遥って言うんだけど……」
「へぇ、モデルさんなんだ。ってそういえば、植坂もその人の話してたね……。私その辺疎いからなぁ。今度調べてみよっと」
どうやら佳苗の興味は遥に移ったらしい。これでようやく解放される……と思ったのも束の間。
「ってことはヤバいじゃん、結衣! ライバルが美人なんて大変だよ!? 頑張って! 私も協力するからさ!」
「いやだからそうじゃないってば!!」
ここまで来ると勘違いでもなんでもなく、ただからかっているだけだとわかる。佳苗によるこのお遊びから解放される日は、果たしてやってくるのか……。
******
「今日は本当にお世話になりました。ありがとうございました」
「お邪魔しましたー!」
「こちらこそ、娘のお友達というだけでなく、同じ立場の方とお話が出来て光栄でした。がさつなところもある娘ですが、どうぞ仲良くしてやってくださいね」
「はい、もちろんです! お世話になっているのは私の方ですから!」
「また明日! 学校でね~!」
「うん、また!」
「またなー」
もうすぐ日没といった頃。門まで見送られると、すっかりお世話になった佳苗の家を後にした。佳苗やお母様から習ったこと、垣石家の考え方を教わるなど、非常に充実した時間であった。家に帰ったらまた今日の復習をした方がいいだろう。
「そういえば、玲とはちゃんと話できたのか?」
自転車に乗る連に合わせた速度で原付を走らせていると、連は思い出したように聞いてきた。
「へ!? あ、うん」
「……どうした?」
「あ、ああいや、なんでも……!」
「……?」
私の素っ頓狂な声に、連が訝しげな顔を向けてくる。
(うぅ、佳苗ぇ……!)
今日の復習のことに気を取られていて気がついていなかったが、今私は連と二人きりだ。普段ならそんな変に意識したりはしないのだが、先程佳苗に囃はやし立てられたばかりで無駄に全身に緊張が走る。
だがここで変にアクションを起こせば、また佳苗に笑われるネタとなるだろう。そうはいくものか。連にバレないように小さく深呼吸をすると、話題を戻す。
「えーっと、二ツ羽くんと話せたか、だよね。少しだけ話せたよ。挨拶くらいは、ってとこだけど」
実のところ、二ツ羽くんの副業について教えてもらえた上、前回の失敗へのフォローについてのお礼も伝えることができた。最後は無視されてしまったため、一方的ではあるが最低限の関係性を築けたと前向きに捉らえてもよいだろう。
「そうか。ならとりあえずは一歩前進、だな」
「うん。ありがとう、連のおかげだよ」
「は? なんで俺? 玲と話せたのは垣石んちに行ったからだろ?」
「えっ、あ、いや……えーっと」
ーー男が惚れた女の子のために一肌脱ごうっていうのに、その役目を私が奪うなんて野暮ってもんでしょう?
(……お、落ち着け、私!)
不意に佳苗の言葉が脳裏を過ぎり、言葉に詰まる。佳苗にそうからかわれたから連のおかげだと思った訳ではない。自分を取り戻さなくては。
「コホンッ、確かに連の言う通り、二ツ羽くんと会うことが出来たのは佳苗のおかげだよ。まさかそこで二ツ羽くんに会えるとは思ってなかったけど」
実は、帰る間際にもうひとつ佳苗に言われていたことがある。それは、佳苗が最初に二ツ羽くんのことを説明しなかった本来の理由だった。
ーー確かに玲にはうちの手伝いをお願いしてるけど、必ずしも出番があるとも限らないの。そうなると、あいつ私を避けてるのか顔も出さないから絶対に会えるっていう保証はなかったんだよ。それなのに今日うちに来てるよ、なんて期待させること言えなくて。……でも、黙っててごめんね。
ーーううん、佳苗は気を使ってくれただけだもん。謝る必要なんてないよ。こちらこそ、たくさん気を回してくれてありがとう。
佳苗は申し訳なさそうに打ち明けてくれたけれど、佳苗には感謝こそせよ、謝罪される謂れなどない。例のからかいは別として、だが。
要するに、佳苗は元々私を二ツ羽くんに会わせるつもりはなかったのだ。ただ佳苗のできる範囲で、本来外部の人間に見せることのない家業の内側を見せてくれただけ。それだけで充分、佳苗には頭が上がらない。結果として二ツ羽くんと話をすることには成功したが、あくまで成り行きに過ぎないのだ。何事もなければきっと、二ツ羽くんと私を仲介してくれていたのは連だっただろう。
「最初に相談に乗ってくれたのは連だし、そこで〝親しいわけでもない人にいきなり相談を持ちかけるのはどうなんだ〟って止めてくれたおかげで、より親しくて近い立場の佳苗に相談しよう、って思えたわけだから、やっぱりきっかけをくれたのは連だよ」
偶然であったとしても、導いてくれたのは連に間違いない。連がきっかけを作り、佳苗が繋いでくれた。二人のおかげで私は一歩前進することが出来たのだ。
「だからありがとう、連」
「……ん、おう!」
連は照れくさそうにニカッと笑ってくれた。相談に乗ってくれた時や、こうして佳苗の家までついてきてくれた時もそうだが、連はこれまでずっと私のことを気にかけてくれていたのだろう。その笑みは晴れ晴れしいものが見えていた。
「あ、そうそう。あいつ今までよりは学校来るようになると思うぞ」
「え、どうして? 何か言ってたの?}
私が二ツ羽くんと別れた後、連は彼の後を追いかけていた。それから暫く戻ってこなかったため、何か話をしていたのだろうとは思っていたが、そこで何か話を聞けたのだろうか。
「言ってたっていうか。どっちかっていうと俺が言った方だな」
「言ったって何を?」
「お前出席日数やばいらしいな。担任が嘆いてたぞ、って」
「えっ」
まさかの出席日数の話だった。そういえば相談をもちかける前に、連がそう言っていた覚えがある。担任の先生が嘆くほどとは、余程のことではないだろうか。
「まぁ、嘆いてたは嘘なんだけどな」
「えぇっ!?」
二ツ羽くんの出席日数について心配する私を後目に、連は悪びれる様子もなくあっけらかんと言ってのけた。
「ああでも言わねぇとあいつ来ないし。補講にしても限度があるだろうしなー。あれだ、嘘も方便! ってやつだな」
「連もそんな嘘つくことあるんだね……」
そうでも言わなければ二ツ羽くんは本当に学校にやってこないのだろう。体育祭や文化祭といった学校行事にも顔を出さないらしいし、確かに出席してもらうにはこれが最も効果的かもしれない。
「まぁな。にしてもあれはおかしかったぜ。ヤバいぞって言った瞬間、あいつ目の色変えたからな。〝そんなはずは……計算を間違えたか……?〟とかブツブツ言ってやんの。お前にも見せてやりたかった」
「それは……確かに見てみたかったかも」
今のところ、私は無表情の彼しか見たことがない。焦ったところなんて想像がつかなかった。
「だろー? まぁだからさ、前よりは学校来るようになるだろうし、何かあれば声掛けてみたらいいんじゃねぇか? 逃げるようなら俺が捕まえといてやるし」
「捕まえるって。……まぁでも、そのときはお願いします」
「おう! 任せとけ」
実際、二ツ羽くんには無視されてばかりだ。声をかけたからと言って応じてくれるとは限らない。それを彼の友達である連が仲介してくれるというのなら、それに勝る良策はないだろう。素直に甘えさせてもらおう。
「……あれ、連こっちだっけ?」
話に夢中になっていて気が付いていなかったが、分かれ道はとうに過ぎているはずだ。まさか見落とした訳では無いだろうし、何かこちらの方向に用事でもあるのだろうか。
「いや、もう暗いし送っていこうと思ってさ。慣れた道っつっても、危ねぇだろ。……まぁ、俺チャリだから時間かかるけど」
「うーん、でもあんまり明かりないし坂の山道だし、自転車だと大変だと思うよ」
「うーん、でも女一人で帰すのはなぁ……」
気持ちはありがたいが、家まで送ってもらっては連の帰宅時間が遅くなる。申し訳ないからと断るも、連にも引く気はなさそうだ。
「……ん?」
どうしたものかと悩んでいると、不意に前方の視界に人の姿を捉えた。向こうもこちらの存在に気が付いたらしく、足早に近づいてくる。
「知り合いか?」
「うん、身内」
「身内?」
原付の速度を落としたことで連も察したらしい。けれどまだ初対面の連は、彼が誰なのかわからず、首を傾げている。彼との距離が残りほんの数メートルとなると、私は彼に声をかけた。
「こんなところで何してるの? もしかして迎えに来てくれたの、紫乃?」
そう、現れたのは紫乃であった。紫乃は私の傍まで駆け寄ってくると、恭しく頭を下げた。
「はい。お嬢様のお帰りが遅いようでしたので、お迎えに馳せ参じたところです。もう近くまで戻られていたのですね」
「うん、ちょっと寄り道してたから。わざわざ来てくれてありがとう」
「いえ、滅相もございません。むしろお迎えが遅れたこと、申し訳ございません」
「相変わらず律儀だなぁ、紫乃は」
事前に佳苗の家に行くことについて連絡してはいたが、予定より遅くなってしまったことは否めない。帰る前にも連絡しておくべきであったろう。紫乃が心配性であることをすっかり失念していた。
「……なぁ、もしかしてその人が?」
「あ、そうだ。紹介するね。氏家紫乃。私の二つ上で幼馴染なの」
連には学校で紫乃の話はしていたが、実際に会うのは初めてだ。連に紹介しようと紫乃を促すと、紫乃は深く礼をした。
「幼少のみぎりよりお嬢様にお仕えしております。私のことは紫乃とお呼びください。どうぞお見知りおきを」
「あっ、はい……。こちらこそ……えっと俺は」
「植坂連様、でございますね。存じております。いつもお嬢様がお世話になっております」
「え、俺のこと知ってたんですか?」
「はい。お嬢様の交友関係は把握しておりますので」
紹介するまでもなく、紫乃は連のことを知っていたらしい。学校にも来ていたくらいなので把握していてもおかしくはないが、いつの間に調べていたのか。
そしてふと、紫乃に怒らなければならないことがあったことを思い出した。
「そうだ紫乃! また学校来たんでしょう! 私、学校では好きにさせてって言ったよね?」
私自身、紫乃の姿は見ていないし気配も察知できていなかったが、気配に鋭い佳苗が気がついていた。紫乃があの場にいたことは間違いない。
「申し訳ございません。まさか垣石様に気付かれてしまうとは……修行が足りませんね。精進致します」
「いや、そうじゃないよね。気付かれるとか気付かれないとかじゃなくて……」
「……やっぱ怒るんだな、怒らないって言ってたのに」
「お、怒るというか注意! 早いうちに言っておかないとずっとついてくるじゃない」
昼休憩の時の発言について連に揚げ足を取られたが、これはあくまで注意だ。多少怒りを伴っていることは否めないが。
しかし紫乃に説教をしても、言いたいことが伝わっていないのか、それともわざとなのか、暖簾に腕押しだ。妙に頑固なところがあるのは知っているが、聞き届けてもらわなければ困る。
「お嬢様、お怒りは最もでございますが、続きはまた後程伺います。もうすっかり日も落ちてしまいましたし、今はひとまず急ぎ戻りましょう」
「またそうやって逃げようとして……、まぁ、でもそれもそうか。帰ろうか」
のんびり過ごしているうちにあたりはすっかり暗くなっていた。いつまでも外を彷徨いていては危険だろう。
「連、紫乃が来てくれたし、やっぱり送ってくれなくて大丈夫だよ」
「ん、あぁ……それもそうだな。迎えが来たわけだしな」
「植坂様、ここまでご同行いただきありがとうございました。ここからは私がお嬢様と共に参りますのでご安心ください」
「……あー、はい。よろしくお願いします」
「……連?」
断りに対する連の返事だが、どこか歯切れが悪い。何か思うことがあるのだろうか。
「……なぁ、ちょっと」
顔色を伺っていると、連が手招きしてきた。どうやら紫乃には聞かれたくない話らしい。私が傍に寄ると紫乃に背を向けた。
「あの人、本当にお前の身内なのか?」
「うん、そうだけど、どうしたの?」
「……なんか、うまく言えねぇんだけど変な感じがする」
「変?」
紫乃が変、とはどういう意味だろうか。少し抜けていたり私に対して過保護なところがあったりはするが、他は至って普通だと思うが。
「あ、そういえば確か佳苗も紫乃のこと変わってるって言ってたような……」
他に思い当たる理由が一つある。それは、紫乃の霊力によるものだ。
「紫乃は修行のために霊力の高い山で暫く過ごしてたから、その影響が出てるのかも。そのせいじゃないかな?」
私が初めて学校に行った日……、その日は佳苗と紫乃、清、私が初めて出会った日でもある。その時、佳苗は紫乃を見て言ったのだ。変わった気配であると。最終的には長期の修行の影響によるものだとして結論づけたが、おそらくは今連が覚えている違和感も同じだろう。私自身も紫乃と再会した時に気付いているし、連がそれを察知してもおかしな話ではない。
「そう、なのか。……まぁ、そのあたり俺は詳しくないしな。悪いな、変なこと言って」
「ううん、心配してくれてありがとう」
私の説明に連も納得したらしい。ホッとしたように笑うと、停めていた自転車に跨った。
「それじゃあ、また明日な」
「うん、今日はありがとう! またね!」
「お気をつけて」
連はいつも通りの明るい笑みを浮かべると、手を振って颯爽と走り去っていった。それを見送ると、私達も帰路へ就く。
「お嬢様、晴れ晴れしいお顔をされていますね」
「へ?」
徒歩で来たという紫乃に原付を預け並んで歩いていると、不意に紫乃が私の顔を覗き込み、優しく微笑んだ。
「お悩みは解決できましたか?」
「あ、うん。まだまだだけど、少しだけ進めたかな」
「それは……! とても素晴らしいことです。よく頑張りましたね」
家業に対する悩みをまず最初に聞いてくれたのは紫乃だった。おそらく昨夜からずっと気にかけてくれていたのだろう。紫乃は大袈裟すぎる程に褒めてくれると、本当に嬉しそうに微笑んだ。
「これから一歩ずつ前進致しましょう。私も力及ばずながらお手伝いさせていただきます」
「うん、ありがとう。これからもよろしくね」
私が紫乃に笑いかけると、紫乃もまた笑みを浮かべて会釈した。彼の後ろでは宵闇に紛れて星々が見え隠れしている。そういえば、紫乃と話をした昨夜にもこの星空を眺めたのだった。
「今日の月も綺麗だといいね」
「えぇ、きっと美しいでしょう。またお茶をご用意致しましょうか?」
「ふふっ、そうだね。お風呂を上がったら少しだけ夕涼みをしようかな。明日も学校があるから、短い時間だけだけど。付き合ってくれる?」
「もちろんです。極上のお茶をご用意致します」
「お願いね。楽しみにしてるから」
「かしこましました、お嬢様」
昨夜見上げた夜空には、上弦の月が輝いていた。きっと今宵の月も美しい。
紫乃と夜の約束を交わすと、遥の待つ家へと急ぐのだった。
縁の管理人 第3章 終
最初のコメントを投稿しよう!