縁の管理人 第1章

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 遥の社交辞令に、連はちらりと私の方を見た後、露骨に嫌そうな顔をした。確かに連からすれば、何も無いはずの空間に話しかけた私は不審に見えるかもしれないが、そこまで嫌がられるようなことでもないだろう。随分と嫌われたものだ。 (はぁ、仕方ない)  どうやら私の相手をする気はないようなので、ここは遥に任せて沈黙に徹することにする。 「ここに来るまでのことは覚えてる? あなた、雪の中で倒れていたそうよ」 「えっと確か……、紬喜山を登ってる途中に雪が降ってきて、まぁでももう春だし、大したことないだろ、と思ってそのまま登ってたら、雪が激しくなってきて、それから……」 「……そこからは覚えてない?」 「眠いなって思ったら、体が重くなってきて……」 「……そっか。怖かったね」 「! ……、……はい」  遥が連の頭を撫でると、連は嫌がる様子もなくされるがままになる。心なしか、安心した表情になったように見えた。 (そうだ。連は雪山で倒れる、って怖い思いをしてたんだ。……私、事情を聞き出そうとしてばかりで、連の気持ちを汲もうともしなかった)  遥が当然のように連に配慮している姿を見て、はたと気付かされた。そんな怖い思いをした後に、見慣れない場所で目を覚まし、姿の見えない何かに囲まれていることに気が付けば、さらに恐怖を覚えてもおかしくない。 「……連」  グッと決意すると、私は連の傍に膝をついた。     
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