縁の管理人 第1章

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 大きな音を立てて自室の扉が開かれる。騒々しい声に目を覚ますと、部屋の明るさに目が眩んだ。カーテンで遮光されているはずなのに、瞼の裏と比べると随分と照度に差を感じる。 「えぇぇ……春休みなんだし、別にいいじゃん」  無理矢理に覚醒させられた苛立ちから、突然の来訪者に反抗するように背を向ける。反論はしてみるものの、寝起きでかすれた声では聞こえなかったかもしれない。けれどそんなことよりも、とにかくこの温かく穏やかな寝具の中から出たくない一心で、毛布を頭まですっぽりと被る。すると、目に優しい暗い光景が再び広がってきた。 「まったく……結衣!」 「っ~! あぁああ……」  けれど無慈悲なことに、毛布はあっさりと引き剥がされる。冬場特有の冷えた空気に体が晒され、悲痛な叫びが口から漏れた。最後の悪あがきとばかりに体を丸めてみるけれど、返ってきたのは呆れたような溜め息一つ。 「いい訳ないでしょう! 今日みたいな天気がいい日にこそ、みっちり修行をができるってものよ」 「……私は別にしたくて修行してるわけじゃないし」 「何か言った?」 「なんでもないー」  極めて小声でぼやいたつもりだったのに、耳ざとく聞かれてしまう。さらに繰り返せば、相手の機嫌を損ねることは明白だ。流石に喧嘩を売るほどの度胸は私にはない。そんなことをすれば、長々としたお説教が待っていることは確実なのだから。     
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