59人が本棚に入れています
本棚に追加
大きな音を立てて自室の扉が開かれる。騒々しい声に目を覚ますと、部屋の明るさに目が眩んだ。カーテンで遮光されているはずなのに、瞼の裏と比べると随分と照度に差を感じる。
「えぇぇ……春休みなんだし、別にいいじゃん」
無理矢理に覚醒させられた苛立ちから、突然の来訪者に反抗するように背を向ける。反論はしてみるものの、寝起きでかすれた声では聞こえなかったかもしれない。けれどそんなことよりも、とにかくこの温かく穏やかな寝具の中から出たくない一心で、毛布を頭まですっぽりと被る。すると、目に優しい暗い光景が再び広がってきた。
「まったく……結衣!」
「っ~! あぁああ……」
けれど無慈悲なことに、毛布はあっさりと引き剥がされる。冬場特有の冷えた空気に体が晒され、悲痛な叫びが口から漏れた。最後の悪あがきとばかりに体を丸めてみるけれど、返ってきたのは呆れたような溜め息一つ。
「いい訳ないでしょう! 今日みたいな天気がいい日にこそ、みっちり修行をができるってものよ」
「……私は別にしたくて修行してるわけじゃないし」
「何か言った?」
「なんでもないー」
極めて小声でぼやいたつもりだったのに、耳ざとく聞かれてしまう。さらに繰り返せば、相手の機嫌を損ねることは明白だ。流石に喧嘩を売るほどの度胸は私にはない。そんなことをすれば、長々としたお説教が待っていることは確実なのだから。
最初のコメントを投稿しよう!