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(……ずっと、あんな生活を続けられると思ってた)
温かく、平和で、優しい世界。それは確かにあったはずの時間なのに、今となっては遠い昔のようだ。実際、過去を夢に見て懐かしいと思えるほどに、月日が流れたのは確かだろう。
幼かった私――紬喜結衣は、十六歳となった。祖母は二か月前に病で倒れ、それまで母のいる東京にいた私はこの町へ呼び戻された。――紬喜神社の正当後継者として、だ。
そして今。母の代わりに私の傍にいるのは、先程私を叩き……もとい、起こしに来た〝彼〟――鷲宮遥(わしみやはるか)だ。
「あぁ、やっと来た。ほら早く。 ご飯冷めちゃうじゃない」
「おはよ、ねぼすけ結衣」
「おはよう、清(さや)」
居間へ向かうと、唇を尖らせた遥と、人の姿をした小さな生き物が待っていた。手に乗るくらいの大きさの彼女は、この神社に住み着いている精霊だ。からかうような口調で私の周りをふわりと一周すると、私の茶碗からお米をつまみ食いした。朝食の準備は既に整っているらしい。
「先に食べててくれていいのに。いただきます」
「まったく……。いただきます」
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