3話 如月弥生のKISS KISS XXX!

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 彼の父親は、外資系コンピュータ会社のシステムエンジニア。業務繁忙のため、年間を通してほとんど家に帰らない。加えて、年に数回は、この日本国にすら帰らない時もある。だから都市機構住宅の3DKも、姉と母親と水口では少々持て余す広さだ。 「なんだかなー、HTMLを最初からやり直せ、って感じだな!」  そんなとき突然、ドアが開いた。頭にヘア・カーラーを鈴なりに巻きつけた、パジャマ姿の二十歳代の女性が、眠たそうに、怪訝そうに現れた。 「ちょっとおおおお!」 「あ、姉さん!」 「うるさいわね! いま何時だと思ってるの? 静かにしてくんない?」 「ご、ごめん……」 「まったくもう!いい加減あたしを寝かせて! 壁越しに聞こえるのよ、全部! 睡眠不足は美容の敵なんだから! いいこと、今度そのプリンター動かしたら、生かしちゃおかないよ! あと、独り言もやめて! やるならやるで、静かにしてちょうだい!」  バターンンン! 「……」  力一杯ドアを閉めると、姉は自分の部屋へ戻った。無理もない。ここから自転車ですぐの幕張新都心や、海浜幕張駅付近では現在、夜風にまかせ、新聞紙が路上を舞い、ペデストリアンデッキには空き缶が転がり、京葉線の終発電車もとっくに出ていった後。こんな深夜では、客待ちのタクシーすら一台もない。この窓の外、海浜幕張の街は、もぬけの殻になっていた。 「怒んなよ! まったく! これ位、いいじゃんか!」  水口祐介は、姉に自分の「サンクチュアリ」を掻き乱されたようで、少し不服だった。が、時間が時間だ。彼はほんの数分ほどメールを確認すると、今度はお待ちかねのアドレスを黙って呼び出した。  https://magome.kiss-mfg.co.jp/yayoi/ 「にょん!」  そんな声を出し、画面上にいつもの女の子が出て来た!窓枠につかまって顔だけ出している、本物の女の子のように! 「あは、驚いた?」 「わたし、如月弥生!今度、高校生になるの。応援よろしくね!」 「ふあああ、ここはいつでも春だもんね!空気が、おいしいー!」
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