1話 国産初、恋をする機械!

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「わかった。わかったから、それを踏まえた上で、表紙だけでも見てはくれないか」 「え?」 「娘さんは、残酷だが帰っちゃ来ない……帰っちゃ来ないのは揺るぎない事実だが、視点を変えて、もっと物事を生産的に考えてみてはどうだろう。帰って来ないなら、せめてうちの工場で、その娘さんを作ってみてはどうかと思うんだが……」 「娘を……作る? バカな! 馬鹿馬鹿しい! マネキンのダミーを造って満足するような人間だと思うか、僕が!」 「ところがだ! 人形に魂を入れることが近い将来、実現できるかも知れないんだ!」 「魂だったら、製品にいつだって込めてるよ……。」 「お前の魂じゃない! もっと言えば、娘さんの感情を忠実に再現した回路を、これから作ろうと言ってるんだ!」 「それってなあ、手塚治虫だってもう漫画で書いてるよ……」 「ああ、じれったい!もう、袋から出す!とにかく見ろ!これが、お前を見るに見かねて買ってきた、オレのアメリカみやげだ!」  見慣れない表紙の本を、ぺらぺらとめくってみせた。 「アーティフィシュアル・インテリジェンス……人工知能っていうのか?」 「そうだ。そう遠くない将来、うちの人形に、その人工知能とやらが組み込めれば、それこそ 『身体に何があったって絶対に死ねない娘』が出来るかも知れないんだ!」 「絶対に……死ねない娘?」 「ああ。たとえ時間はかかるかも知れない……うちは大資本がバックについている大手メーカーじゃない。ただの中小企業だ。けどな、娘さんの復活が実際の仕事となれば、キミだって当然、燃えて来るだろう?」 「!」  時あたかも、昭和六十二年。金型の精密加工を得意とする、如月製作所。一介の町工場の経営者として、如月敏夫は決断した。決断するまでに、そう長くはかからなかった。 「こうして、いつまでも大手メーカーに安値で買い叩かれる、部品下請工場として甘んじている位なら、ダメでもともと、大きく打って出てみるか!」 「そうだ! 現状のままくすぶっているより、何百万倍もマシだ!」 「やるか! よく解らんけど、何だか面白そうじゃないか!」  そんな決意表明から、40年余りが経とうとしていた。我が国初のアンドロイドが、彼の孫である技術者・如月康夫の手によって、間もなく実用化されようとしていた。 「これ、康夫! 娘はまだ出来んのか?」
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