1話 国産初、恋をする機械!

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1話 国産初、恋をする機械!

国産初、恋をする機械!  わりと近未来のあるところ。如月製作所、馬込工場。従業員約8000名をかかえる制御機器メーカー準大手の会社である。  会長、如月敏夫、七十三歳。彼は弱冠三十歳で町工場を興し、化工品、マニュピレータと、工場内用輸送機のトップメーカーを一代で築き上げた。  時は、昭和六十二年に遡る――  そこには半分壊れかけたネズミ色のスチール机があり、ひとりの中年男性が座らされていた。フォトスタンドのなかに納められた写真の少女を見るたびに、なぜか深い深い溜め息をついていた。 「如月クン、また溜め息か?」 「なんだ、専務か……何か用か?」 「用って訳でもないが、まあ、良かったらこれを読んでみるといい……」 「読む? 何を読むんだ今さら……小説か? 気安めは止してくれ。今さら何を読んだって、娘は二度と生きて帰っちゃ来ないんだ」 「ま、何というかな、学術論文といったところかな」 「何を、今さら……学生じゃあるまいし!」 「おいおい……キミの溜め息は、僕が何を言ったって止まりゃしない……。もう半年になるんだがな。いい加減止めないか」 「……まだ、服喪中なんだ」 「それは分かる。よく分かるんだが、あの、その、何だ……そんな目で見るなよ!」 「……」  と、虚ろな目を向けたと思ったら、次の瞬間、がっくりとうなだれた。 「年柄年中、毎朝毎晩、溜息を聞かされるこっちの身にもなってくれ。まあ、僕はそれで我慢できるとしてだ。口には出さない従業員が内心、いつまでもウジュウジュしているキミをどう見ているか……。他人から自分がどう見られているか、セルフ・モニタリングにうるさい、いつものキミならわかっているだろうが」 「そりゃそうだ。だがな、だがキミもいっぺんクルマに殺されてみろ実の娘を。こっちはメシだって満足に食えない……睡眠だって……もう何日も……」 「おいおい、大丈夫か! キミらしくないぞ」 「今の僕は……花びらが全部ついたままで、ある日突然、地面に落ちている椿の花ひとつ見たって、何故だか、悲しくてやり切れないんだ……本当に……」 「そんな、歌の文句じゃあるまいし……」 「とにかく、娘は帰ってこない……二度と咲かない人生を、あんな若さで……」 「何故そこで泣く!」 「……」  しばし、沈黙が流れた。
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