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極楽浄土
あの意地悪婆が、ああも変わるとはねぇ。
口を開けば皮肉と屁理屈。
息子夫婦に愛想尽かされ、近所からも鼻つまみ。
ヨボヨボの野良猫だけが話し相手でよ。
マルだっけ?よく餌をやってたな。
ああ、あの猫が生きてた頃はまだマシだった。
猫が死んでからは手がつけられんくなってよ。
だけど、ホレ、去年の正月。
あの婆、古い家で独り侘しく餅食って、喉に詰まらせて死にかけたんだ。
あれから変わったんだよな。
なんでも鬼に会ったらしいぞ。
どこで?
そりゃ三途の川さ。
んで、その鬼に、
今からでも遅くない、引き返してご近所さんや息子さんに謝っていらっしゃい。
ちゃんと許してもらえたら極楽へお連れします。
って、言われたんだと。
鬼の説教が効いたのか、憑き物が落ちたみてぇに人が変わってなぁ。
私らにも謝ってくれたし、息子家族とも仲直りしてよ。
今年の正月は息子達が来てくれたって、そりゃ嬉しそうに話してたっけ。
なのによぉ。
あれから一年で死んじまうなんてなぁ。
しかも正月で余った餅食って、また喉に詰まらしちまったんだろう?
笑っちまうよなぁ。
けどよ、鬼との約束は守ったんだ。
きっと今頃は極楽だろうよ。
ああ、きっとそうに違いねぇ。
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