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生前、嫌われ者の婆に寄り添ってくれた黒い猫。
あの仔がいてどんなに救われた事か。
『マル、なのかい?』
婆はおずおずと黒猫の名を呼んだ。
マルは賢い仔で呼べば必ず返事をしてくれた。
あの猫が本当にマルならば……
ニャッ!
黒猫が短く鳴いた。
瞬間、力強く大地を蹴ると婆に向かって全速力で駆けだした。
ニャッニャッニャッニャッニャッ!
『おまえ本物のマルか!なんてこった!こんな所で逢えるなんて!マル!こっちにおいで!』
ニャニャニャッ!
もちろんさ、とでも答えたのか。
弾丸と化したマルはひた走る。
そして婆まで1mを切った所で、切り株を踏み台に大きく飛んだ。
ニャーン!
宙を舞うマルの瞳は爛々と輝いていた。
四肢を大の字にぱぁっと広げ、髭は完全に前を向いている。
婆は思い出していた。
この仔は老猫のくせに甘えん坊で抱っこが大好きだった。
だが困った事にジャンプはいつでも目見当。
無茶な毛玉は飛びさえすれば、あとは婆が受け止めてくれると心の底から信じているのだ。
『マルゥッ!』
ぼふっ!
マルが死んで十年経つが身体が動きを覚えていたようで……間一髪で受け止める事が出来た。
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