迷 宮 序 説

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 好きな人が、いた。  ――と言っても、小さな子どもの頃の話だ。  帝都にお住まいの高貴な方が、ごく短期間、私の村に滞在したことがある。  もちろん大切なお役目あってのこと。私が彼の前をちょろちょろするのを、父母はハラハラしながら眺めていただろう。  極めつけが、別れの一幕。  その方が村を去ろうという段になって、私は彼にすがりつき、()いたのだ。 「また、あえる?」  父母はあわてて引きはがそうとした。けれど、その方は寛大に、 「君が大人になる頃、ひょっとしたらね」  優しく微笑(ほほえ)み、こんなことをおっしゃった。 「次に選ばれる(、、、、)のは君かもしれない。そうしたら、僕が宮殿で迎えよう」 「およめさんに、してくれる?」  ……うん、我ながら図々しい子どもだ。  両親は天を仰いだけれど、その方は屈託なく笑われて、 「ではそのときまでに、君を護れる男になっておくよ。小さな姫」  幼い私の手を取って、そこに口づけをくださったのだ――    
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