数える

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数える

 数えて! と声がするので、数えなくてはならない。  最初に数えたのは羊だった。少し前から私は不眠症気味で、そのときも、暗い部屋の中で覚醒した頭を抱えて、何も考えたくはなかったのに、すべての不安について考えていた。寝なくてはいけないと知っていたが、眠れなかった。そのとき初めて声が聞こえたのだ。「数えて!」  私はなぜか、疑問を抱かなかった。幻聴に決まっているのに、幻聴に従った。  数えて! と言われても、部屋は暗く、数えられそうなものは何もない。しかたないので頭の中で何か数えることにした。ただ数を数えるのではつまらない。羊を思いついた。眠れないときに数えるものだし、ちょうどいい。私は羊を数えだした。  本物の羊なんか見たこともないくせに、私の想像する羊はいやにリアルで、本物の羊なんか見たこともないから、私の想像する羊は鳴かなかった。羊が黙っているから、私はスムーズに数えられた。そのうちに私は眠った。羊、1026頭。  それから声は何度も聞こえた。そのたび私は目の前の何かを数えた。いや数えずにはいられなかった。数えなければ何も手に着かない。抗えないのだ。     
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