第1章

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こんなに安らげるソファーは初めてだ。さぞ値段がはるのだろう。さらに、奥様から自家製であるハーブティーまでふるまわれた。香りが良く、日課である寝酒を辞め、毎日このハーブティーを飲んで眠ることが出来れば、  どれほど幸せであるだろうかと感じた。しかし、深い余韻に浸っている訳にもいかない。 今日の目的を果たさなければ。 俺の向かい側に奥様が座られる。息子さんの姿は見られない。  「すみません。今日は息子は友達と遊びに行かれてまして…」  「いえいえ。大丈夫です。お気になさらないでください」  「ありがとうございます。早速ですけど、 学校内での息子の様子はどうでしょうか。周りの方々に迷惑をかけていませんか?」  「学校内での様子につきましては…」 淡々と会話が進む。何度も家庭訪問を行って いたので、やりとりについては自分でも自信を持てる程だ。話続けて、もう30分は過ぎたであろうか。そろそろ終わりの時間だ。  「本日はありがとうございました。とても有意義な時間を過ごすことが出来ました。また、息子様について、何かございましたらご連絡ください」  「こちらこそ、ありがとうございます。また、次の家庭訪問を心待ちにしています」 玄関から飛び出すように俺は出て行った。もう二度とあの家には行きたくなかった。 あの自宅は二階建てであり、案内されたソファーに座ると、丁度二階へと続く階段が見える。その階段にずっとニヤニヤと笑みを浮かべた男が座っていた。会話中に、何度も奥様に男について尋ねようとしたが、全く気付いていない様子であり、さらにその男は俺が目を離す度に、徐々に距離を縮めていた。 初めは階段を一段ずつ降りてくる。次は、奥様の座られている横にある観葉植物の陰に立つ。最後は、俺の真横にまで来ていた。頬に生温かい息がかかるのが分かる。奥様はそれでも気付いていない。目の前にいる存在がいないかのようにずっと話を続けていた。俺は話を続けながら、地獄のような時間を過ごした。 数年後、俺が自室でテレビを見ていると、あるニュースが眼に飛び込んだ。近所の自宅の庭で男性の遺体が見つかったという内容だ。 容疑者である人の名前を見た時に、数年前に 家庭訪問を行った自宅の奥様であることに気付いた。ニュースキャスターが張りのある声で原稿を読み上げる。
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