甘くて優しいカフェオレを

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 やがて目を開けると、世界は少し正常に戻っていた。数字も数字だと認識できるまでに回復している。だけど頭はついていかなかった。たとえ数字だということは分かっても、それらの繋がりや意味付けがどこにあるのかは分からなくなってしまった。一度目を閉じ意識をそらしてしまったせいで、体が正しく自己主張を始めたようだ。つまりはこう。もう仕事をするな、休憩をしろ。そうわたしの体は言っているのだ。  モニタの画面をオフにし重い体を起こすと、体のどこかでぽきりと渇いた小さな音が鳴った。こんなのはご愛嬌、一時間近く同じ姿勢でデスクにかじりついていたせいで、体が固まってしまったのだから仕方ない。それともこういう現象は年のせいなのだろうか。  年、年。  そう何度も心の中でとなえてはいるが、わたしはそこまで年をとってはいない。  そこまで、と自己弁護をしてみるあたりが若くないがゆえの欺瞞なのかもしれないが……。  脳内であれこれと考えながら自動販売機へと向かうのは、もう無意識の行動だ。休憩すら機械的にこなすようになってしまっている。しかしこれだけハイペースで仕事をしても、まだあと二時間分の作業が残っている。だがわたしのすべてはもう限界に近い。目だけではない。頭も体も……心も。  フロアを出て少し廊下を歩くと、奥を曲がったところに自動販売機がある。ブウン、とかすかに機械音がする以外はここも静かなものだ。誰一人いない。廊下沿いの他部署のフロアも軒並み静かだ。それでもドアの上半に備わる透明のガラスごし、どこも仄かに明るいから、まだ何人かは働いているのだろう。     
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