甘くて優しいカフェオレを

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 フロアとは逆側の窓、向こうには見慣れた夜景が広がっている。空は黒に近い濃紺。星はほとんど見えない。地上の眩しさの方こそ、よっぽど天体観測にふさわしい。大小、強弱。七色に光るライト。どれもため息がでるほど美しい。わたしは昔から夜景を眺めるのが好きだった。  だけどこれらのライトは美しさを競うために輝いているわけではない。必要だから灯されているわけで、そこには一人一人の生活がリンクしているはずなのだ。それを想像するたびにわたしの胸は小さく震える。締め切った窓は向こう側の音を拾えなくしているが、不夜城は今日も活気づいている。 『あの光る夜は、夜に働く人間がいるからこそ輝いているんだよ』  そう誰かが言っていたことを、この景色を見るたびにわたしは思い出す。  それは夜だけではない。昼にもいえる。昼の労働も夜の生活を成り立たせるために必要不可欠なもので、昼も夜もあるからこそ、一日というものが成り立っているのだ。人は夜も生きなくてはならない。そのためには夜を作り守る人間が必要だということだ。  だからわたしは今日も働く。夜遅くまで働くくらい、この日本では誰だってしていることだ。だけどそれだけではない。この社会を、夜景を、顔も知らない誰かの生活を守りたいから、だからわたしは働いている。誰にも言ったことはないけれど、それは本心からのわたしの働く動機だった。     
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