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横顔
ギターなんて弾いたこともないし興味もない。
水泳ばっかやってた体育会系の俺がクラシックギター?
友達はみんな驚き、驚いた後笑った。
あの人が弾くからだ。同じ研究室の椎名ゆり子。
彼女が今日は研究室に来ている。
すごい僥倖だ。
女達の輪から外れて窓際に座り、
分厚い本を開いて熱心に読んではメモをとったり付箋を貼ったり。
長い真っ黒な髪、化粧っ気のない頬、通った鼻すじ、
いつもちょっと疲れたような二重瞼の瞳。
キュッと結んだ唇だけは淡い色の口紅を差していて、
そこだけ他の女と同じモノをかろうじて持っている。
顎、首すじ…その下…。
俺の視線をゆり子は気付いているだろうか。
ゆり子は俺の2年先輩。浪人したというから、
歳は3つ上か。
就職せず、大学院を受けるという。
窓から西日が射す。
昔の学者が書いた本は背表紙の書名が金文字だ。
金文字が西日を浴びて、いっせいに、燦爛と耀く。
まるで飾り気ないゆり子のささやかなオーラだ。
ゆり子は顔を上げ、ふっとちいさな息を吐く。
「森田くんも、コーヒー飲む?」
女達はいなくなっていた。
そんなことも気づかないくらい、俺はゆり子を見つめていた。
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