バゲット慕情

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 からん、と表の木戸のベルが鳴る。いらっしゃいませ。華は接客用の声を作った。話はここで途切れた。  華の祖父ならば、美智子の父よりもいくらか若いはずだ。華の親は大変な孝行者である。華のような子を生んだという功績を立てたのだから。  あたしは父に何の孝行もしてやれなかった。  女ばかりの短大を卒業した後、服飾関係の会社に就職し、職場の同僚といい仲になって、気が付いたら身ごもっていた。美智子は退職と入籍を決めた。父は反対した。美智子に甘かった父が、初めて美智子を怒鳴りつけた。  美智子は家を出て、相手のアパートへ転がり込んだ。夫となった男は、ある夜から突然、美智子に暴力をふるうようになった。胎児は美智子の体の中で死んだ。  誰かに愛されたかった。だから浮気をした。壊れた生活に疲れた女の腐った色気は、ろくな男を呼び寄せなかった。少しでもましな男に巡り会うため、美智子は不倫の恋を重ねた。  美智子が正気づいたのは数年後だった。四度目の流産で死にかけた拍子に、不意に現実が見えた。自分が愛と呼ぶものは、肉欲を掛金とする賭博でしかない、と。  どこで勘違いしてしまったのだろう。男がほしかったわけじゃない。あいつらは、女が腹を見せれば牙をむく浅ましい生き物だ。     
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