バゲット慕情

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 あんたはねえ、母親から何もしてもらってないのよ。わたしが様子を見に行ってみたら、酒瓶がごろごろ転がった台所で、まだ四つのあんたがわんわん泣いてるじゃないの。ごはんももらえずにねえ。かわいそうだったわねえ。  父がその女について何か話しているのを、美智子は耳にしたことがない。女の話は、すべて親戚から聞かされた。  女は、もともと酒場勤めをしていたという。どんな男が相手でもすぐに股を開く女だったらしい。美智子が父の子ではない可能性もある。  真人間の父がそんな女を引き受けたことが、美智子には不思議だった。きっとだまされたのに違いない。  それより、と美智子は話を変えた。矢継ぎ早に言葉をかけなければ、華はそそくさと仕事を再開しようとする。 「華ちゃんは、四年間、よく続けてくれたわよね。園田くんを除けば、今まででもいちばん長いうちに入るわ。最初はね、華ちゃんは続かないんじゃないかと思っていたの」  雇った当初、感情を全く表に出そうとしない田舎出の少女に、美智子はずいぶんと苛々させられた。仕事を教えるときも、きつい口調で指示をするときも、小言を食らわせているときさえ、華は温度のない声で、はいと一言。  生気が乏しい。ただし、まじめではある。家事の手伝いをしつけていたのか、作業に関しては最初から筋がよかった。     
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