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「まあ、華ちゃんが二年生に上がるころには、もうこの子は卒業まで辞めないだろうって気がしたわ。ねえ、園田くん」
ちょうど工房から出てきた園田に、美智子は話を振った。園田は、山葡萄ゼリーと青林檎ゼリーとコーヒーゼリーがそれぞれに仕込まれた三つのタッパーを、ミニキッチンの冷蔵庫にしまった。
園田は、長身の背中を丸めるように、うなずいた。
「一年生の、十一月末から、十二月の真ん中くらいまで、華さんは、実家に、帰っていて……戻ってきたとき、すごくやせていて……それから、変わったように、思いました」
「そうそう。すごくやせて帰ってきて、でも、すごくしっかりした」
「たくさんのものを、見てくれるようになった……と」
それだ、と美智子は思い出した。園田の目が華を追っているようだ、と気付いたきっかけだ。かつて園田は、華の変化に対して、言葉を選びながら、ぽつぽつと説明した。
たとえば、工房で使いっ放しにしたボウルや器具を、こまめに気付いて洗ってくれる。洗って拭き上げたものを、きちんとあるべき場所へ戻しておいてくれる。そうした気遣いが、自分にはとてもありがたい。それをしてくれるのは、華さんだけだ。
華は、美智子でも園田でもない、どこか一点を見ていた。
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