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美智子は、若いころから豊満な体型だった。全身にむっちりと肉が付き、胸と尻ははち切れんばかりだった。
男どもの称賛のまなざしは、つねに美智子について回った。女どもには嫌われた。会社勤めをしていた時期は、しょっちゅう、聞こえよがしの陰口を叩かれたものだ。
美智子は鼻で笑っていた。女のやっかみは、いっそ心地よい。彼女らは、男なんぞよりはるかに敏感に、女の美を発見する。
五十を超えたころから、体の肉の質が完全に変わったように思う。全体にふにゃりと柔らかくなり、乳房も尻もだらしなく流れるようになった。
今はまだ、補正効果の高い下着によって体型を維持していられる。それすらできなくなる日も、いつかは来るのだろうか。
美智子はドレッサーの椅子に掛け、二十分かけて、化粧水と乳液と美容クリームを肌になじませた。首から鎖骨、胸元まで、丁寧に手入れをする。
体型と服装、肌と化粧には、気の済むまでこだわっている美智子である。パン屋の女主人が貧相な体型でしみったれた服を着て、荒れた肌をさらしていたら、誰がそんな店のパンなど買うだろうか。
午後八時半を過ぎると、美智子は電気を消し、ベッドに入る。夜更かしは大敵だ。朝は四時半に起きなければ、五時半に工房へ出勤する園田に合わせられない。
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