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「サークルの友達とカラオケに行って、朝まで歌います」
若いわね、と美智子も苦笑した。
華は大学の音楽サークルに入っていた。十一月の学園祭で引退した、と聞いた気がする。ギターが得意らしい。
エレキギターを操ってロックを演奏し、歌うこともある。そう告げられた日には、美智子は唖然とした。それから、ようよう思い出した。アルバイトで見せる物静かな勤勉さは、華という人間の一面でしかないのだ、と。
「それじゃ、カラオケが終わったら、こっちに来なさい。五時半には開けてるから」
華は小首をかしげた。肩に届かない長さの髪が、はらりと揺れる。もう一生、伸ばしません。疲れた目で宣言する以前は、背中まで長かった髪だ。あれは一年ほど前だっただろうか。
レジ台の美智子の肩越しに、ミニキッチンの華と工房の園田の目が合ったようだった。美智子も工房のほうを振り返る。
「いいわよね、園田くんも。その日は三人で朝食をとりましょ。あたしが作るわ」
園田は、のそのそとうなずいた。華は、はいと返事をして、中途半端な洗い物を再開した。美智子は、次の話題を切り出したいのを、華の洗い物が一段落するまで待つことにした。
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