狂愛烈花

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 あの織田軍きっての忠義者と称賛された男が主君に弓引こうとは、と憤る者がいた。あの目立たぬ男のどこに謀反を起こす覇気などあったのか、と眉をひそめる者もいた。あの不気味なまでに賢明な男がなぜ三日天下の愚行を為したのか、と首をかしげる者もいた。  忠興は一人、動転する者たちを憐れんでいる。やはり、信長と光秀の間に交わされた真の君臣水魚に気付いたのは、忠興だけなのだ。  そう、珠でさえ、何ら気取ってはいなかった。忠興は、誰よりも聡明な愛妻を前に、得意になった。  先だって、珠の住まう味土野の山奥を訪ねた際である。珠は光秀の娘だ。天下の前に姿を現せば、たちまち命を狙われるだろう。珠の居所を知り、珠を独占しているのは、忠興ただひとりである。  忠興は珠を閨に押し倒しながら語り聞かせた。 「御館様と義父上様は、初めから、その結末を思うておられたのだ。御館様は此度、確かに不意を打たれなさった格好となった。しかしその実、義父上の軍を誘い寄せたのは御館様御自身だったに違いない」  小袖を掻き分けて珠の白い肌を吸えば、鮮やかに赤い花が咲いた。子を二人産んだ珠の体はようよう熟れ始め、もっちりと甘く香って、忠興の肉欲を煽る。珠は震える吐息を呑み、忠興に冷たく応えた。 「意図がどうあろうと、父の振る舞いは造反、それ以外の何者でもありませぬ。罪は罪でございましょう。明智の血は子々孫々まで逆賊と貶められます。なぜ、御前様は……」     
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