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ああ、と女の鳴き声をあげて、珠は賢しげな言葉を途切らせた。
「俺が何か?」
「……殺しなさい」
逆賊たる明智の者を生かすべきではないと、珠その人が再三、忠興の前で繰り返すのである。珠は光秀の子らの中でも殊のほか才気に恵まれ、父に愛されていた。
「俺に珠を殺せと?」
「ええ。殺して首を取り、逆賊の血を滅ぼしたと天下に誇りなさい」
珠は、融け落ちそうな嬌態をちらつかせつつも、凛然と言い放った。
殺す、か。俺が珠を殺すのか。それを想像すると、甘い昂ぶりが忠興の体の奥に沸き起こる。返り血のぬくもりは、珠の体内の潤う熱に似ている。それらはどちらも、無上の興奮をもたらすものだ。
「殺してくれようか」
口に出すと、獣の衝動が加速した。珠を貫く。閨の刀は己の一物である。珠が声を上げる。白く細い喉に惹かれ、歯を立てる。このまま噛み裂いて、溢れ出る血を飲み干してやりたい。
「殺しなさい」
ああ、珠よ、何と聡く恐ろしい女だ。わずか一言で、たやすく俺を狂わせる。
忠興は、ただ愛欲のままに暴れた。意識が赤く燃え、後はもう覚えていない。貪るように珠の体を堪能し、果てて、崩れ落ちて眠った。
目を醒ませば、全身に鬱血の痕を残した珠が髪を乱して寝息を立てていた。
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