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藤孝のことを、忠興は子供の頃から好いていない。自分には長岡家とは別の血が流れているのではないかと、十五歳の忠興は、半ば本気で思う。忠興の顔立ちは両親に似ず、晴れやかに整っており、気性もまた苛烈で勇ましいのだ。
理想の父として忠興が思い描くのは、織田信長の姿である。かつて忠興は、上洛した信長の晴れ姿を、遠くからではあったが目撃した。おお、と思わず声が漏れた。それほどに衝撃を受けた。
信長は、忠興の父、藤孝と同年の生まれだ。しかし信長は、皺ぶいて枯れかけた父とはまるで違っていた。
猛烈な覇気と、あでやかな装い。一挙手一投足はもちろん、まなざしやうなずきの一つに至るまで、武神の舞のごとく力強く且つ華やかだった。信長はただそこにいるだけで、まさしく我こそが天下人となるべき男なのだと、声高に証すかのようだった。
その信長が、忠興の我武者羅な初陣の様子を耳目に入れたらしい。
「与一郎よ、前髪姿からは及びも付かぬ、勇猛な戦ぶりだったそうではないか。今後に期待しておるぞ」
信長の言葉を伝え聞いた忠興の胸に誇らしさが燃えた。信長への憧れが募り、忠義という言葉の意味を悟った。御館様のために命を懸けねばならぬ。次の戦いではより大きな武功を挙げねばならぬ。忠興は固く心に決めた。
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