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不条理カウントダウン
日曜の夜に事務所から電話が入って、月曜午前中の藤原さん宅の訪問が明日はキャンセルになった、と告げられた。藤原さんが入院したらしい。胸に、さっと嫌な予感が差した。
「体調が思わしくないんですか?」
藤原さんは病院嫌いだ。よほどのことがない限り、病院に行こうとはしない。電話の向こうで、所長が声を潜めた。
「肺炎だって。誤嚥性肺炎。呼吸困難になりかけて、奥さんが救急車を呼んだらしい」
嫌な予感が冷たく凝り固まった。
「誤嚥性? でも、食事介助には十分気を付けていましたし、藤原さんの奥さんだって、介助の知識はあるのに」
「うん、ヘルパーさんも奥さんも、みんな気を付けてたはずだよ。藤原さん自身もね。それでも、長い時間をかけて、気管のほうに食べ物の欠片が蓄積しちゃってたんじゃないかな? 気管切開をして人工呼吸器を付ければ、一応は、回復も可能らしい。だけど、あの藤原さんのことだから、ね」
所長は語尾を濁した。ああ覚悟しなきゃいけないんだな、と、ぼくはスマホとは反対側を向いて息の塊を吐き出した。
用件のみの短い通話を終える。疲れに似た重たいものが、ぼくの両肩にのしかかった。
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