赤ずきんに呪いを。

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君が悲しむのは心底嫌だ。嫌なくせに、僕は君を悲しませる。知ってるさ、そんなの。 しかし、時間がないんだ。僕はもう、余命を過ぎている。医者も驚くくらい、延命した。でも、もう無理なんだ。昔から僕を蝕む病。そいつと一緒に、僕はこの世と別れを告げる。なんでもう無理なのか、って?それは簡単さ。僕の身体は僕が一番よくわかってるから。 日に日に自由が効かなくなっていく手足。頻繁に歪む視界。君の声が耳鳴りで聞こえないことだって増えてきた。 だから、僕は今日、君に呪いをかける。 「ねぇ。僕、この病院のそとで暮らせることになったんだ」 ほんとに?と無邪気に笑う君。 「そしたら付き合ってほしい。僕と」 今度は頬を染める。本当に可愛い。愛しくてたまらない。できることならば、僕は一生、君のとなりを陣取っていたかった。何があってもこいつは僕の女だって胸を張って言える男になりたかった。 でも、できなかった。実際の僕は、君より弱いし、学校へ行くことも、病院から出ることすらままならない。かっこいい所なんて一つもない。それでも、君は僕のそばにずっと居てくれた。 …頬を染めるってことは、期待してもいいのかな。 「僕は、君が好き…大好き、だよ」 君は照れたように、私も、と笑った。きっと、僕も似たような表情をしていた。 …全部嘘なのに。すっかり騙されてる。きっと、僕が死んだら君は悲しむのだろう。嘘つきって、泣くのだろう。知ってるよ。でも、嫌なんだ。僕を置いて、君の時が流れるのが。 僕のことを、忘れてほしくない。 隣で椅子に座っている君の、唇にそっと触れてキスをした。それはふにふにと柔らかくて、ずっとこのままでもいいかな、なんて思ってしまった。だけど、君は驚きで息するのを忘れていたので放してあげた。そのまんまじゃ死んじゃうよ。 無期ののち、ぶわ、と赤面プラス涙目という最高のコラボを生み出す君。それに喜んだ僕は、次の君の台詞で有頂天となった。 「ふ、ファーストキスだったのに!」 「え、ほんと?やったね」 なんでよ、と怒る君。知らなくていいよ。カッコ悪いし。君の記憶に永遠に僕がいるため、なんて。あぁ、本当に自己中心的で我が儘な話だ。 でもこれは試験なんだ。君を狙う狼たちへの。騙されやすい赤ずきんに見合う相手は僕をこの子の一番から引きずり下ろせた奴だけっていうね? もう、時間がないんだ。それくらい、許してよ。
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