我ら、隠れ住む者たちより。

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 この世界のことをほとんど知らないまま、僕はこの世界を捨てても良いのだろうか。僕のこの選択は正しいのだろうか。僕は後ろを向きながら前に足を踏み出しつつある。僕はその足を少し止めて、もうしばらく考えていたかった。あともう少し考えれば、きっと答えが分かるような気がした。しかしその足はもう止めることはできなかった。  最後の目が消えつつあった。  今まで見えていたものがポツリポツリと消えてしまう。視界がどんどん狭くなっていく。遠くの街がなくなった。ビル群がなくなり、様々な色の家々が無くなった。滑り台が無くなり、鉄棒が無くなった。ポツリポツリと消えていく。そして最後に黒い影の中でポツンと残っていたブランコが、もうどこにあるのか分からなくなっていた。やはりこの世界に悪意のない場所なんてないのかもしれない。最後までそう考えていられればどれほど良かったことか。僕は最後まで、この世界の判断がつかないままであった。そしてその状態で、人間の思考をつかさどる脳みそが、ふっと消えてしまった。  僕は晴れて“世界から隠れてこっそり暮らす者たち”になった。  公園の前のアスファルトの道にはもう誰もいない。日は完全に沈みあたりは暗くなっている。周りの家々からは、夕食時の団欒の声が飛び交っている。きっと、だからに違いない。道の真ん中に落ちた一粒の雫には、蟻でさえ気付くものは誰一人いなかった。
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