地球儀とランドリー

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キスをしながらそこを撫でるのが好きらしい上客に、自分の喉仏の素晴らしさを買われた二時間をかけて語られたことだってある。急所のひとつであるから、仕事とはいえ苦しい痛いと怒りたくなることもあった。 じゃあ耳にしろ、唇、咥内、首の後ろ、背筋に腰、ひざの裏、気持ちのいいところは大抵が急所だ。血管が多く、触れれば温かく、埋め込めば泣きそうに悲鳴があがる。思えば自分の周りにはそんなふうに、急所ばかり探って近づいて、少しずつ傷ついていく関係しかないような気がした。 自分の身体のどこが気持ち悪くて、どこが淫靡で、どこが見たくもないほど醜いか、初めて気づいたのは中一の夏だった。義父がふかしている煙草の下敷きになった昼飯代の二千円を貰うためだけにひたすらしゃぶった。中学は弁当だったからそうするしかなかった。煙草の痕と傷と鬱血のカラフルな肌を暗い制服に隠して、進級した先の六月に自分が売り物になるのだと知った。倦んで嘲笑って無関心になって、それらの過程を繰り返してきて、ようやくすべてを無視出来るようになった。 *** 「声かけておいてなんだけどさ、だいじょうぶなのそれ」 ユウキ、と名乗った年は同じか違っても三つもかわらないだろう男が、俺の身体を指差して平坦な声で言った。     
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