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また会おうね。
彼女はそう言って笑った。
8月のある日、私は彼女に呼び出され、近所にある神社に向かった。
そこは、私と彼女のいつもの待ち合わせ場所だった。
「どうしたの?話って何?」
私が聞くと、彼女は少し困ったような顔をする。
「ごめんね、私引っ越すことになっちゃった。今度のお祭り一緒に行けないの」
小学校に入ってから、毎年一緒に遊びに来ていた神社のお祭り。今年も当然行くものと思っていた私は、頭を殴られたような衝撃を受けた。
「引っ越しって、どこ行くの」
「よくわかんないけど、遠くに行くんだって」
いつも声が小さい彼女だったが、このときはやっと聞こえるくらいの小さな小さな声だった。
どうやって帰ったのか、よくは覚えていない。気づいたら私は家に帰っていた。
また会おうね
彼女はそう言って、小さく笑った。
それから大人になり、私は今も彼女に会えていない。たまに友人に聞いてみても、おとなしかった彼女のことを、覚えている人の方が少なかった。
また会おうね
そう言った彼女に、私は何と返したのだろう。
うん、またね
そう返したのだろうか。
8月の約束は、悲しい嘘になってしまった。
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