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意外な返答に戸惑った。どういう事だろう。菜々子さんは淑やかな笑みを浮かべている。
「私達夫婦の事、聞いた?」
「……はい」
視線のやり場に困り、コーヒーの中の闇に目を向けた。
「健太郎、優しいでしょう」
そう言ってカップを大事そうに両手で包み込む。
「はい」
視線を菜々子さんにやり、返事をした。今度は菜々子さんが視線を落とす。
「健太郎の事はとても愛してるけど、私は他の男性と寝る。すごくわがままな事なんだけど、私にはニ人の男性が必要なの。心と身体が満たされて、私は私でいられる。でも、たまに健太郎の優しさが苦しくなる時があるの。私へのあてつけなんじゃないかって思うくらい」
「そんな……」
咄嗟に言ったものの、住岡さんの心のうちなんて私にわかるわけない。言葉に詰まり、口をつむぐ。
「わかってるわ、そんな事するわけないって。でも……健太郎にも、もしいい人がいたらお付き合いして欲しいと思ってるの。朋美ちゃんとはよく食事に行ってるみたいだし、もしかしたら友人以上の感情があるんじゃないかって聞いたけど、それはないみたい、でも」
そこで一旦区切って、私の顔をじっと見つめる。
動悸が早くなる。
「健太郎はあなたの事が好きみたい」
「え……っ」
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