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菜々子さん、どうして住岡さん一人ではダメなんですか? どうしてそんなに自分の欲望を優先させるんですか? 世の中の大多数の人間は、それと折り合いをつけて生きているのに。菜々子さんと高杉さんの関係はれっきとしたダブル不倫ですよね。いくら住岡さんが何も言わないからってそんな事していいんですか? そんなに、セックスがしたいんですか? 嫌悪感が走る。そんな風に考えてしまう自分にも。
高杉さんの奥さんは知っているのだろうか? 娘さんは? そんな疑問を全部、二人に突きつけたい気持ちになる。菜々子さんが微笑むたび、その美しさの奥に、欲望の渦が潜んでいるのかと思うと、気分が悪くなる。悟られないように必死で笑顔を繕った。早くこの時間が終わってほしいと思いながら――。
「さて、本題に移っていいかしら」
本題。そうだ、今日は菜々子さんから話があるという事で集まった事を思い出した。
三人一斉に菜々子さんの方を向く。
「私ね、子供ができたの。三ヶ月って言われたわ」
躊躇う様子もなくそう明言した。
一瞬で自分の作り笑顔が消えていくのがわかる。
誰も言葉を発さない。
住岡さんに目をやる。無表情だ。どう思っているのかわからない。
「健太郎君、前にも話したと思うけど……」
沈黙に耐えきれなくなってか、高杉さんが声を掛ける。
「わかってます。菜々子、おめでとう。そして高杉さん、ありがとうございます、ニ人で一生懸命育てます」
「健太郎……」
菜々子さんは目に涙を溜めている。
三人は静かに現実を受け入れているように見えた。
「どういうことですか?」
たまらず私は疑問をぶつける。
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