小さな暗室大きな暗室

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ーーーーーーー… 「この映画を観たのは二度目だったんだけど、今回の方がすごく素敵に感じた」 目の前に座った彼女がコーヒーカップを片手に言う。 映画を観終わり、喫茶店に入った僕等は映画の感想を語り合うところだ。 それが二人のいつものお決まりのコースなのだ。 実際に、この喫茶店はそういう意図で併設されているように思う。 映画の上映が終わったあと、その余韻に埋れながら美味しい飲み物をお供に感想を語り合う場をあのおじいさんは提供したかったのだろう。 ちなみにこの喫茶店にもおじいさんがマスターとして、映画が上映されてる以外の時間には大体常駐している。チケットの販売もここでやっている。喫茶店のカウンターがチケットカウンターを兼ねていると言うべきか、はたまた逆か。 今はお客さんも僕らしかいない、映画の上映時間外、僕らへのメニュー提供も終わっている、でおじいさんはカウンターの中でぼーっと頬杖をついていた。 「初めて観たときは何で観たの?」 同じ映画を今回の方が素敵に感じたと言う彼女に僕は聞いた。 「家のテレビで、ビデオだったわね」 「そっか、そしたら、そりゃそうだ」 「そりゃそう?画質がビデオだとあまり良くないからって話?」 「それもまあ、ある意味含まれるのかもしれないけど…映画館での映画体験ってのは作品を最高の形で観せてくれるんだよ」 「そうね…きっとそうだわ」 彼女が視線を外して僕に同意する。勘が良い彼女のことだから具体的なことまで話を及ばせなくても察しがついたのだろう。 「映画館で観ることで最高の形で作品を受け取ることができるのはわかるわ」 そうだ、本来映画はスクリーンで観てもらうことを前提として作られているはずなのだから。 「じゃあ、さっきの話を聞かせて。この映画館が特別に好きな理由はなんなの?」 そういえばそんな約束を上映前にしていたな。 「そうだったね、その話をするよ。小さい頃まで遡ることになるんだけど…」 クリームソーダのアイスをひと掬いして、僕は彼女に話し始めた。
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