小さな暗室大きな暗室

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それからも度々穴を覗き込んでは隣人のテレビを確認した。 いつもいるわけではなかったが、テレビがついているときには大体が何かしらの映画を観ていて、映画が好きなのだということは小さな僕にもわかった。 そして映画を観ていたときには僕もできるだけ一緒になって楽しんだ。 今思えば小さな頃とは言え、犯罪級なのだけど、引かないでほしい。 隣の人が観ている映画は子供の僕が観ても面白いアクション映画から、退屈にも感じるラブロマンス、ちょっと怖くてでもかっこいい任侠映画とか、僕を大人になった気にさせるのには十分なくらい様々な種類のものを観ていた。学校の友達に自慢したくなるときもあったけど、なんとなく悪いことをしているような後ろめたさはあって自分だけの秘密だった。 親に言ったらどう叱られるかわかったもんじゃないから、当然両親にも内緒だ。 僕を映画好きにしたのは間違いなくその人だよ。 そんな楽しい秘密を抱えていた僕は、ある日失態を犯した。 隣人がその日観ていた映画が、ホラーだったんだ。 友達の前ではその頃の僕もお化けなんかいるわけないって強がってたけど、本当は怖い話を聞いた夜に一人でトイレに行けないくらいには怖がりだった。 やめておけばいいのに、怖いもの見たさもあってその映画も穴から覗き込んで一緒に観ていたんだ。 そうして終盤あたり…いきなり恐ろしいお化けがおどろおどろしい効果音と共に画面に現れた。 あまりの恐ろしい映像に僕は大きな声で叫んでしまったんだ。 ガタッと隣人が動く音が聞こえた。近付いてくる気配がする。 子どもだった僕はバレてしまったことが恐ろしくてその場にいられず、隣人の動向を確認し終わる前に押入れから飛び出してしまった。 終わった、と子どもながらに思ったよ。 その日はホラー映画のお化けも、明日以降自分に起こるであろう恐ろしい不安にも怯えてなかなか寝付けなかったのを覚えてる。 下手したら隣人の言いつけによって親にこっぴどく怒られるだけじゃすまなくて警察に捕まるかも、とか考えてたよ。 そこから数日間は、いつ隣人か、親か、警察か、自分の元にやってきて怒鳴りつけられるか怯えていたんだけどいつまで経っても何も変わった様子がなかった。 あんまり何もないもんだから、もしかしたらあの日バレたと思ったのは自分の勘違いで、穴の存在には気付かれてなかったのかも、なんて甘いことを思い始めた。
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