小さな暗室大きな暗室

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しばらく経ってから勇気を出して再び穴を覗いてみたんだ。 すると、そこには何も変わらない前と同じ光景が広がっていた。 すっごくホッとしたよ。 バレてなかった、怒られる心配はない、秘密の場所が奪われることはない、って。 でも何よりも驚いたのは自分が一番嬉しかったのは、これからもいろんな映画を観られる、ってことだった。いつの間にかそんなに映画が好きになってたんだなってね。 それから何本かの映画も、染み渡るように面白かったなあ。 でもそんな秘密の趣味もあるとき突然終わりを告げた。 穴を覗こうと思って押入れに入ると、穴から何かが突き出していた。 びっくりしたよ、恐る恐るそれを抜き取ってみると丸めた紙だった。 近くに新しく出来た個人映画館のチケット。それは本当に偶然じゃないかと思うんだけど、初めて覗き見た怪獣映画の次作だった。 そしてチケットの裏に走り書きみたいな文字で、「これで最後だ」って書いてあったんだ。 穴の向こうには何かポスターでも貼ったんだろうか、暗く影になっていてもう隣の部屋のテレビを観ることはできなくなっていた。 僕は色々な感情ですごく複雑な気持ちになったよ。 怖いとか申し訳ないとかもあったし、やっぱりバレてたのかとかもう観られないのかとか、何で今になってあの穴を閉じたのかなぜ最後なのかこのチケットは何なのか…向こうが何を考えて自分にこのチケットをくれたのかもわからなかった。 とりあえず一度新しく出来たその映画館に足を運んで様子を見に行った。 雰囲気のあるその映画館は自分に挑戦的な態度を向けている気がして、中に入る気にはなれなかった。 それからまた少し経って、母親から隣人が引っ越したことを聞いた。 なんかぽっかりと物足りない気持ちになって、でも何と無く少し腑に落ちた気分にもなって、チケットの映画の公開が終わる寸前にギリギリで僕はその映画館に行って映画を観る気になったんだ。 カウンターでは人の良さそうなおじさんがやたらニコニコしていた。 実は僕は映画館で映画を観るのが初めてだったから緊張していたんだけど、その笑顔で少し和んだんだ。 席に着いて静かに上映をまった。人はまばらに入っていた。
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