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僕は、昔からウソが大嫌いだった。
「いい子にしてればきっと治るよ」
「来年はお母さんと一緒に」
看護士さんから耳にタコが出来るくらいに聞いた言葉は、一度たりとも現実にはならなかった。
僕は、昔からきっぱりと物を言う人間だった。嫌なら嫌と、違うなら違う、と。まるで、自分を捨てた親と、大嫌いなウソつきと、一緒になることを恐れるように。
今日も僕は、点滴を引きずりながら病院の敷地にある広い庭を歩く。
暇つぶしのように残された人生を消費する僕にとって、特に目的もない散歩は日課のようなものだった。
「あ~!まって~!」
うつむきながら歩いていると、横をボールが通り抜けた。それはやがて木にぶつかり、辺りに桃色の花びらが舞う。10を越えてから数えるのをやめた春が、ここに訪れていたのだ。
「…………」
僕は無言のままボールに近寄り、それに触れた。久しぶりのような、もしかしたら初めてかもしれない感触に呆然としていると、背後から声が聞こえた。
「おにーちゃんありがとう!よかったら一緒に遊ばない?」
振り向くと、小さな女の子がそこに立っていた。
綺麗な黒色の髪と、丸い形の瞳。幼い容姿の少女は、だが僕と同じ、白い服に身を包んでいた。
少女は目を輝かせて、こちらのほうをじっと見てくる。遊んでオーラが見えそうなくらいの眼差しに、僕は背中を押され返事をした。
「…………めんどくさい」
「やったぁ!………ってえぇ!?遊んでくれないの!?」
「うん。それにここ、確かボールは禁止だろ?怒られたくないし、遊ばないよ」
例え相手が誰であっても、嘘をつくことは決してしない。自分の心に誠実に。誰かのために曲げる必要なんて、ない。
「うぅ………ひどい……」
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