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少女は目に涙を浮かべながら下を向いた。別に酷くなんてないだろ……本当のことを言ったまでなんだから。大体、俺は運動したくても出来ないし、こいつも今は治療中のはず。こんなに動いて平気………
「…………ぐっ…!?」
突然、心臓が締め付けられた。その痛みに耐えきれず膝をつくも、バランスを崩して倒れこんでしまう。
「……おにいちゃん?…おにいちゃん!!」
少女の声はおおきくなっていき、目元に溜まっていた涙が落ちていく。誰かを呼ぶ声。大勢の足音と驚愕。その全ての中心となった僕は、何もできないまま意識を手放した。
・・・
目を覚ますと、僕の体はたくさんの管に繋がっていた。起き上がろうと体に力を入れても、重い何かが邪魔をする。
「………大丈夫かい?」
首だけを動かして横を見ると、いつも僕を診てくれる先生が立っていた。その顔はいつにもまして神妙で、どこか寂しげに見えた。
「…………はい。ご迷惑をおかけしまし
た」
痛む心臓を手で押さえながら、僕は目を細めた。自分の体が蝕まれていることは気づいていたが、まさか倒れるまでに悪化していたなんて。
「いいんだよ。……それより話があるんだが……」
「………なんでしょう?」
先生はいっそう険しい顔をして、僕と目を合わせた。その表情に、僕は嫌でも現実を思い知らされてしまう。……まあ自分でも暇つぶしと言っていたくらいだ。対して悲しくなんて無い。
「非常に、残念なことだが……」
気がつけば、部屋には夕日が差し込んでいた。春の日差しはいくら時間が流れても暖かくて、自分がいかに冷たい人間かと思う。何も考えず呆然と窓の外を眺めていると、ふと体が軽くなった。
「んん………おにい…ちゃん…?」
まだ開ききっていない目を擦りながら、少女は眠たげに声を出す。この子はどうやら、僕が倒れてからずっとそばにいてくれたらしい。
「おにいちゃん…大丈夫……?」
「………ああ、大丈夫だよ。ありがとう」
そんな風に動く僕の口に、なにか違和感を感じた。使ってない筋肉を使ったような疲れた感覚だった。
「へへ……よかったぁ……」
そう呟くと、再び少女は眠りについた。幸せそうな顔で、寝息もたてながら。
心の底から、僕はおかしな人だ、と感じた。仕事とか、利益とか、そんなものを考えずに僕に優しくしてくれる人なんていただろうか。
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