0人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
僕の手は無意識に、少女の頭へと伸びていた。久しぶりに触れた人の温もりは太陽にも負けないくらい暖かくて、優しかった。
・・・
そこから、僕の寝たきりの生活が始まった。ベットの上で、流れる景色を見るだけの生活。それでも退屈しなかったのは、毎日、少女が部屋に来てくれるからだった。
「ねぇねぇ、今日はなんのお話をしよっか?」
少女は最近、遊びじゃなくてお話をしようと言ってくる。管に繋がった僕の体を配慮してくれてるのだろうか。とことん出来た子供だ。
「まったく、毎日来なくていいんだよ?外で遊ぶの好きなんでしょ?」
「いーの!おにいちゃんとお話するほうがたのしいもん!」
無邪気なその言葉にも、つい心を開いてしまう。相変わらず僕の本心をズバズバ言ってしまうところは変わらないが、それでも少女は、そばに居続けてくれた。
「君は嫌じゃないの?こんな嫌なことばっかり言う人と一緒にいて。つまんなくないの?」
本当のことを知りたくて、少女にはきつい言い方をしてしまう。嘘はついていないのに、なぜか自分のことを嫌ってしまいそうだ。
「ぜんぜんそんなことないよ?だって……」
「…………それも全部おにいちゃんでしょ?」
「……………!」
その言葉に、今度こそ僕は何も言えなくなってしまう。この少女の前には、好きも嫌いも、嘘も本当も、関係ないのだと気づいた。何も疑うこともなく、何も求めることもなく、自分を自分だと考えてくれているのだと。
「………君は、いい子だね」
いつの間にか、少女の頭を撫でることが日課になっていた。今までみたいに散歩が出来ないぶん。今まで人に触れてこなかったぶん。少女に触れていることで全てを忘れ、信じられるようになった気がした。
………僕は初めて、僕以外の人のことを考えた。
最初のコメントを投稿しよう!