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数分して戻ってきた千景の手には百貨店の紙袋。
中からバラの包装紙で包まれた立方体の細長い箱を取り出す。しぶしぶといった雰囲気で、赤いリボンを解き開けると、そこには一本の青い折り畳み傘。
「香水は、雪が最近、俺に臭うとか言うから探してたんだよ!
結局、よく判らないから買えなかったけど……
帰宅が遅くなったのはそのあと、臭い発言にむしゃくしゃして飲みに行ってたから。
あと、これは雪にやるよ!」
「いらない!
そんな……不倫相手にくれてやる!」
その私の一言に彼は怪訝な顔つきになり、ガシガシと後頭部を掻き出した。
「はじめからお前のだ!
これだから、恋愛慣れしてないとこれだ」
「んな!! 慣れとか関係ないでしょ!」
私が激昂して、千景の襟元を締め上げると、青い傘を盾にして睨み付ける私を牽制する。
「痛いわ、このバカ雪!!
......大体なんで、信じてくれない?」
呆れ顔でこちらを見る千景からは先ほどのような、怒りは感じない。何かを諦めたように、優しく私の頭を撫で髪を指でとく。
「……信じてないっていうか……
だって、誕生日でも結婚記念日でもなくて、なんでって思ったから」
「……出会った記念日だよ」
咄嗟に顔を挙げたところ、千景は顔を少し反らしたが、髪に触れる指は止まらない。
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