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「――……付き合ってください」  茜色に染まる放課後の校舎、その隅で、彼女は彼に告げた。  彼は顔を赤くしながら戸惑い、そして照れ臭そうに、小さく「僕でいいなら……」と言葉を返す。  彼女は「ありがと」と笑顔を浮かべた。……でも、その笑顔とは裏腹に、彼女の心は冷めていた。  別に彼のことが好きなわけじゃなかった。  周りの子が次々と付き合い始めるのを見て、羨み、焦る。自分だけが取り残されたような、脅迫概念に似た感情がまとわり付き、追い込んでくる。  とにかく“彼氏”というステータスが欲しかった。  あとは別れようが構わない。それだけで良かった。  だからこそ、彼を選んだ。  絶対的にライバルが少ないであろう、彼を選んだ。  別段カッコいいわけでもなく、話が面白いわけでもなく、物静かで、教室の隅にいるような彼。告白すれば断られることもないだろうし、それをわざわざ人に話すこともしないだろう。  リスクが少なく、リターンは大きい。  だからこそ、抵抗少なく告白という手順を踏むことができた。
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