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 パスタは彼女の好物だった。  ただ、それを言ったのはたった一度だけ。彼はそれを、覚えていたようだ。  そして彼女に訪れる、猛烈なあの淀み……。  表情は歪み、嫌悪感が襲い掛かる。  なぜこんな感情が湧くのか……。  なぜこんなにも不快感が湧くのか……。  そう考えた時に、彼女は理解した。  それは、罪悪感だったと。  これだけ自分を見てくれている、想ってくれている彼に、彼女は嘘をつき続けている。その事実が、どうしようもなく哀しくて、申し訳なくて、情けなくて、彼女自身を責め立てる。  自責の念は消えることなく、彼のノートを必死に握り締めていた。  ――もうこれ以上、裏切ってはいけない。  だからこそ、彼女は決めた。  これ以上、嘘をつくのをやめようと。  そうすることで、少しでも自分を楽にしたかった。  とても自分勝手で、自分本意だとはわかっていた。  それでも彼女は、そう決めた。
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