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瞬時に部屋の空気が凍てつく。
「こんな事する為に和樹を君に貸し出したんじゃないんだけどな」
顔を上げるとベッドルームの扉を背にして
ほとほと途方に暮れた顔で九条さんが立ち尽くしていた。
「貸し出したって?笑わせるなよ」
僕のシャツの裾から差し込んだ手を
見せつけるようにゆっくり引き抜きながら征司は憎々しげに呟く。
「まあ、笑ってる場合じゃないだろうな」
普段はソフトな紳士も
今日は一歩も引かなかった。
部屋のドアをしめ切ってしまうと
僕らが絡むベッドの傍まで歩み寄り膝をつく。
「君も――ミイラ取りがミイラになってどうするの?」
まだ征司の腕に抱かれたままの形で
同じ目線で――彼の澄んだ瞳に見つめられると
緊張と動揺で息が詰まった。
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