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征司がどんな反応をするのか。
怒るのか?
それとも笑い飛ばすのか?
僕には分からなかった。
しかしそれは
征司本人にも分かっていないようだった。
「天宮さん……?」
「聞いていますよ」
征司は意外なほど無垢な顔で
瞬きもせず他人事のように女史の話を聞いていた。
そんな静かな
とても静かな内省の時を経て
突如征司はフラリと席を立った。
「征司お兄様……?」
僕が呼ぶ声にも反応は見せず
真直ぐ出入り口のドアに向かいながら
力任せにむしり取った名札を床に投げる。
「天宮さん――自分の問題から逃げないで」
女史は母親のような強い口調で
その背中に向かって言った。
だけどもう遅かった。
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