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シック・イクサバ・ゲキソウショウジョ
「ほれっ!」
彼女の父にして棟梁の金部は短刀をガシャ、と板の間に放り投げた。
すーっ、と滑ってくるそれを、カ、と右拳で押さえ受け取る。
「華乃、任務は覚えたな。暗唱んじて見ろ!」
「導火線ひと束、大兄者の陣まで届ける」
「刻限!」
「夕刻、日の入り間際」
・・・・・・・・・
「華乃、行くのか」
「はい、ばば様。これまでの育成のご恩、決して忘れません」
「今生の別れではない。必ず戻れ」
華乃はまだえくぼの残る数え年16らしい笑みを浮かべた。もちろん、苦笑であったが。
最古参の巫女として氏神に仕えるばばは華乃に説いて聞かせた。
「無念じゃが棟梁様もそなたの兄たちも、金部家の男は皆無能じゃ。領民が財産分けするような気軽さで兄どもに領地を分散し結束を弱めた結果このザマじゃ」
「それは今や詮無いことです」
「じゃが、女子として完全に無視されたそなたは彼らの悪影響を免れた。もはやそなたが金部の民の頼りじゃ」
「参ります」
そう言って華乃は自分でしつらえた疾駆用の足袋をきゅっ、と足の甲にフィットさせ、前傾姿勢で駆け出した。
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