月の夜

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アルスペクタール国のユートルドル宮殿に住む 美しき姫、アリアーヌ。 彼女は宮殿の古いしきたりに従い 上辺だけの付き合いをする夫人たちの 気が知れず、舞踏会を抜け出していた。 彼女の向かった先はバルコニー。 ここが彼女にとって1番、 心安らぐ場所なのだ。 上品に輝く月の光が彼女を照らし この輝きが彼女を 虚構の世界へといざなっていく。 現実と虚の世界の狭間に立つ 彼女の美しい髪を 優しい夜風がなびかせた。 この時の彼女の姿に 見惚れない者はいないだろう。 小鳥でさえ、さえずりを止め 彼女の世界へと 引き込まれているのだから。 一方、自分の美しさを 少しも分かっていないアリアーヌは 自分が身につけている あまりにも露出の多いドレスに目を落とし 小さくため息をついた。 「もっと自由に生きたいわ。 好きでもない人とダンスを踊って 愛想笑いをするよりも 本当に愛する人と2人で 愛のためだけに生きてみたいわ。」 昨晩、ベッドの中で読みふけった 小説の中のヒロインを 自分に置き換えながら、 現実との違いに落胆したのだ。 いつの間にか舞踏会は終わっていて 時刻は0時を過ぎていた。 慌てて宮殿の中へ入ろうとした アリアーヌは慣れない高いヒールに躓いて、大胆に転んだ。 自分の無様な姿に羞恥が込み上げて 慌てて立ち上がった矢先、 下階から何やら怪しげな物音が聞こえてきた。 音の正体を突き止めようと アリアーヌはバルコニーから身を乗り出した。 するとお世辞にも 身分が高いとは言い難い青年が バルコニーに掛かっている 小さな梯子を使って、 登ってくるのが見えた。 そしてあっという間に アリアーヌの元までやってきた。 驚嘆しすぎて何も言えず 戸惑っているアリアーヌとは対照的に 青年は気負いすることなく アリアーヌの隣に立った。 アリアーヌは自分よりもうんと背が高く 少し日焼けをした青年の凜とした眼差しに 今まで出会ったどんな男性よりも 男らしさを感じた。
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