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ユキはいつも、大きな麦わら帽子を被っていた。聞くと夏が苦手なのだと言った。
「だってほら、ユキだから。夏は暑すぎて溶けちゃうでしょ」
冗談っぽく笑うユキの瞳は、本当に木漏れ日に溶けそうにとろんとしていた。
「わたしはね、冬が好き。はやく冬になってほしい。ねえ、ハルもそう思わない?」
ハルはユキが本当に溶けてしまったらどうしようと思った。ユキがいなくなるのが怖かった。だからうん、と答えた。ユキはそれを見て、嬉しそうに微笑んだ。
ハルは初めて、ユキに嘘をついた。
秋になると、ユキはだんだん元気になっていった。冬が近いからか、いつもよりいっそう明るく、楽しそうになった。
「冬が来るよ!雪が降るよ!」
木枯らしの中を、紅葉した葉っぱをバックダンサーに踊るユキの背後には、もう雪が見えるようだった。
ハルはいつもの桃色のワンピースを風に揺らしながら、そんなユキと一緒に踊り続けた。
ハルはユキさえいればそれでよかった。
それはユキのほうも同じのようだった。
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