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わたしね、冬の妖精なの。
冬を呼ぶのが仕事なの。
それでね、春が来て、春の妖精に羽が生えたら――
わたしは、消えるの。
ハルは呆然とユキの声を聞いていた。
「どうして言ってくれなかったの、」
言葉をつまらせるハルに、ユキはひどく悲しそうに微笑んだ。
「だって、言ったらハルといられなくなると思ったから」
嘘をついてでも、わたしはハルといたかったから。
信じたくなかった。唐突にも程があった。ただ、心のどこかで納得する自分もいた。夏が苦手な理由。ユキが来る日は晴れる理由。そして、春が近づくにつれてやつれていく、ユキの身体――
残された時間はもう、尽きようとしていた。
公園に着くなり、ユキはふらふらとハルのほうに倒れかかった。ハルは慌てて抱きとめた。腕の中のユキの身体は燃えるように熱く、枝のように細かった。
「ユキ、ユキ、嫌だ、置いていかないで」
「泣かないで、ハル。笑って、わたしはハルに笑っててほしいから」
それでもハルは涙を止められなかった。ぼやけた視界で、もうユキの足先がゆらゆらと空気に透け始めているのが見えた。ハルはユキを地上につなぎとめるように、腕の力を強めた。
「ハル、ごめんね。今までありがとう」
つなぎ止めようと伸ばした手は空を切った。
薄い雪のひとひらだけがふわりと落ちた。
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