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ハルは悲しみのあまりその場に崩れ落ちた。
と、同時に急な激痛がハルを襲った。経験したことのない奇妙な痛みが、背中から腰から背中を駆け抜ける。その感覚に、ハルは悟った。
時効だ。
ハルは大声で叫んだ。意味のない叫び声をひたすらに上げ続けた。そうしないと時間の流れに飲み込まれてしまいそうだった。
(ごめんね、ユキ。本当にごめん)
張り裂けそうな心とは裏腹に、身体は驚くほど軽かった。元気が有り余っているような、今すぐ動きたいような感覚があった。
(今まで嘘をついて、隠してたのはあたし)
ハルさん、と耳元で声が聞こえた。未だつぼみもついていない桜からの囁きだった。ハルにしか聞こえない囁きだった。
(ユキを、消したのは、)
待っていたよ、待っていたよ、と木々がざわめく。ハルは耳を塞ぎたかった。指先が疼いて見てみると、そこから桃色の花びらがはらはらとこぼれ、宙に舞っていた。
(ユキを、溶かしたのは、)
痛みがふっと消える。ハルは背中にそっと手を伸ばした。ビロードのような手触りがした。
(この、あたしだ)
一陣の桜風が通り過ぎる。
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