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あぐらの膝に手をおいた。 「狼ノ(おいのさわ)には、もうおれしか住んでいないのは、来るときに見て分かっただろう。おれだって、いつもいるわけじゃない。たまに畑の世話やら墓参りやらに来るくらいだ」  長井老人とは、廃線が決まった無人駅で出会った。生活に鉄道を利用している者などいそうもない、山の中の無人駅のホームで長井老人と二人降り立ったとき、自然と目があった。  どこへ行くかたずねられたので、吉野はひとまず狼ノ沢の名を伝えたのだ。本当の目的地は名前すらわからないまま来たのだ。 「集落に長井さん一人になって、どれくらいですか」  狼ノ沢地区はいわゆる限界集落だったのだろう。若者の流失と住民の高齢化が進み、亡くなるか去るかしたのだろう。残された家々は、どこも窓や扉は閉ざされていた。けれども元来雪の多い地域だ。雪の重みで住むべき人のいない家は屋根が壊れ、簡素な造りの小屋などは崩れているのが目に付いた。 「少しずつ減っていって、おれだけが残されたのは二十年ぐらい前か」
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