雪の朝

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 通りにはオルグの店のような大小の露店や屋台が並びました。野菜や果物、鉢植えの花、魚や肉を干したもの、食器や衣服、かんたんな食事ができる屋台からは温かそうな湯気と、肉が焼ける香ばしい匂いがしています。  もちろん、オルグと同じのような装身具も売られています。割り当てられた場所に来るまでの道すがら、オルグはそれらを覗いて見ました。  高価な材料をふんだんに使い作られた豪華な花瓶、象牙材に華奢な彫刻が施され、磨かれた手鏡。  いずれも技と工夫がこらされたものばかりで心惹かれます。  若いころのオルグであれば、それらを見ても鼻にもかけず、自分がいちばん優れていると信じて疑いませんでした。  じっさい、とあるご領主のお抱えの職人として働いていました。しかも十数人いる作り手の筆頭としてです。  小さな工房で生まれ育ったオルグには、じゅうぶんすぎる身分にまで登り詰めていたのです。  謙虚であれ。  誠実であれ。  技(わざ)にひたむきであれ。  オルグは父から繰り返し聞かされた言葉を胸に刻み、年老いた今も忘れることはありません。  けれど、若き日のオルグは父の言葉をないがしろにしていたのでした。  広げた布のうえに自分が作ったものを、ひとつひとつならべました。  値踏みするような斜め向かいの若者の視線を感じます。若者の前にも、ブローチや指輪が光っているのが見えました。     
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